技術が進歩しているからこそPOVは面白い/『流出封印動画 5』と『心霊玉手匣 4』

ここのところマッドマックス 怒りのデス・ロードが、映画ファンはもちろん、普段映画館であまり映画を見ない人が劇場に駆けつけ盛り上がっいる。すでに三回見たなんてのはざらで、「十回以上見ています!」って人が後を絶たない。批評ぶって語ってみれば『駅馬車』がどうたらで〜ってジョン・フォードうんたらかんたらって始まるんだろうけど、この広がりを見ると娯楽作品として成功しているのだと思う。あれだけ、砂嵐に突っ込んだり、海上アクションのような棒で車に飛び乗ったり、画面的には何が起こっているか分かりづらくなりそうなのに、しっかりと何が起こっているか見せてくれている。そんな運動を「見せる」基本的な姿勢が観客を獲得していると感じる。

でも『マッドマックス』のような娯楽超大作でなくても、普段、僕たちが手にする携帯カメラだって性能はぐんぐん上がっているし、最近話題のウェアブルカメラの「GoPro」なんかで撮影された『リヴァイアサン』という映画もあった。POVだから出来ることがある。それが、モキュメンタリー・フェイク・ドキュメンタリーと言われる映画群。『食人種』が1980年とかなり早いが、POV・モキュメンタリーとして人気が出てきたのが、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』あたりだろうか。『ブレア〜』は、徹底的に「見せない」ことで、「恐怖」を引き立たせた作品である。

主にホラー映画が多いPOVであるが、『クローバーフィールド』や『トロールハンター』のような怪獣映画とも相性がいい。ようは、実際に見ている者の気分が味わえるので、ショッカー演出を扱う作品とは相性がいいのだ。

日本でPOVというと、最近ニコ生で放送されたことをきっかけに白石晃士監督の『戦慄怪奇コワすぎ』シリーズが、話題になっている。『コワすぎ』は白石監督得意の都市伝説などのオカルト物を、工藤Dという強靭なキャラクターで、「相手は幽霊だけど物理攻撃を仕掛ける」と今までなかなかお眼にかかれなかったエンターテイメントとして作品に強度がついた。『コワすぎ』ホラーは勿論のこと、河童や巨人、時間遡行…と、ようは何でもアリな作品。白石監督の『コワすぎ』以外の作品との関連性もあったり、最低限『オカルト』を見ていると、思わずグッと来るクロスオーヴァー感が味わえるだろう。

さて、『コワすぎ』はネット慣れしている人なら誰しも一度は聞いたことがあるだろうから、本題の最近見て面白かったPOVモキュメンタリー作品『流出封印動画 5』と『心霊玉手匣 4』に触れることにする。


◼『流出封印動画 5』監修:田口清隆(2013NHK『怪奇大作戦 ミステリー・ファイル』演出)

『流出封印動画』は昔からあるような、素人投稿ビデオのていで複数の封印された映像を公開していくといったもの。シリーズごとの因果関係はないので、現在5作品が出ているが、どこから入っても大丈夫な作りになっている。今回の触れるのはシリーズ5作目であるが、『V/H/S』シリーズに追従する作品なのではないかと感じた。

『V/H/S』シリーズは、複数の監督で一作品あたり30分程度の時間を与えられオムニバス的に繰り広げられる。この作品を見ていて、モキュメンタリーPOVで重要なのは何と言っても「アイディア」だろうと思う。本シリーズの2作目にあたる『V/H/S ネクストレベル』では、眼にカメラを入れて眼 POVを実現させ、眼をつぶったら映像も追従する生身の感覚を実現させた。その他に、ゾンビ POV(ゾンビがナマ肉食べる瞬間が見られる!)、犬 POVなど、これまでに見たかったけど見れなかった映像が見ることが出来る。心霊、ゾンビ、オカルト、未知との遭遇と、シリーズのなかでも一番勝負に出た作品だった。

『流出封印動画5』は60分程度のランタイムなので、『V/H/S』シリーズよりも一作品ごと短いのだが、なかには10分以内の作品から、15分を超える作品までバラバラだ。基本的な姿勢としては、投稿ビデオなので、「この部屋で不審なことが…」→「撮影したら女が映った」→「この後、撮影者は首を吊って死んだという…」と、定番な流れになる。シリーズ5作目では、下記8本収録されている。

1:ふたりの新居
2:闇に潜む者
3:おかえりなさい
4:遊ぼうよ
5:死の鬼ごっこ
6:廃旅館の中に
7:ストーカー返し
8:怨霊病棟

基本的にはポピュラーな定番心霊動画という体制を保っているが、『死の鬼ごっこまさに和製『V/H/S』で、本家のシリーズ内に入れても遜色ない仕上がりだ。

『死の鬼ごっこは、男女4人で頭にカメラをつけて鬼ごっこをするといったもの。そのうち、鬼から逃げるために、進入禁止の地域まで入ってしまう。そこから、怨霊に殺されていく…といったような定番の流れになるが、4人に付けられたカメラが面白い効果を生んでいる。例えば、一人が怨霊から逃げている瞬間と、狙われた仲間のところに助けに入ろうとする「視点」が一画面で鑑賞できるので、狙われている人・追っている人の二つの感覚のどちらに引っ張られていいか、少し戸惑う感覚が残る。また、怨霊に狙われた人(A)からは見えていないのに、狙われた人を見ている人(B)が、狙う怨霊(C)に気づき、そちらに突っ込んでいく。Aからしてみれば、Bがおかしな行動を…と思うし、実際に一度Aの視点でBが死ぬまで見せているので、観客も何が起こっているのだ?と戸惑う。でも実は、BがAを救うために、Cに飛びかかった構図だったことをBのカメラを通じてわかるような編集がされる。最後は定番といったものだが、全員が行方不明になって進入禁止地区の手前でカメラが発見された…ナレーションが入る。

『死の鬼ごっこ』を見ていると、他者の「視点」に関心がいく。AからはDのように見えている。BからはEに見える。でも、自分はFのように見える。など、少し角度を、フィルターを変えて見ることで、「視点」は無数に広がっていくのではないか?と考えられる。オカルトであれば、「霊感」の有無。僕は全くと言っていいほどないが、だからと言って得体の知れないものはないとは言い切れない。「霊感」がある者から、僕の部屋を覗いたら白い服を着た女がいるかもしれない…。

それと、他の一作品取り上げると『怨霊病棟』がすごかった。こちらは、ある女性が、幽霊が出ると言われる病院に入院することになり、友人からの依頼で深夜に病室を抜け出して、徘徊して病院をカメラにおさめることになる。日に日に様子がおかしくなり、病室のなかで立っている女、ペタペタと足音がなる廊下と、最終日には女性が襲われ始め、看護師に助けを懇願する。様子を見に行った看護師もおかしくなってしまい、血だらけでドアを叩いたり、ペタペタと這いつくばって襲ってくる怨霊と、前半は「そこに何かがいる」といった「静」の演出だったが、後半になるにつれて「動」のバイオレンスな作品に変容する。まさに『V/H/S』のテンションになっていくのだ。また、面白いのがペタペタと這いつくばって襲ってくる女が、『流出封印動画 2』の『姦姦蛇螺』の話に出てくる女の怨霊っぽいことだ。完全に一致というわけではないが、シリーズのファンであれば、シリーズ間のクロス・オーヴァーを味わえることは間違いないだろう。


◼『心霊玉手匣 4』監督:岩崎宏樹(代表作『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズ)

2014年から始まった『心霊玉手匣』シリーズ。素人から投稿されてくる心霊ビデオを元に、スタッフが事件を調査していく。恐らく見た人が、意識する作品があると思う。それは、白○監督の『コ○すぎ』シリーズだ。シリーズ一昨目では工○Dに匹敵するようなキャラを確立できていないが、一昨目で調査される側だった女子高生のモロちゃん(本当の女子高生らしい)が、『超コ○すぎ』シリーズ一作目の女子大生(偶然だろうがどちらも家系的に霊能力が高い)のキャラ設定とそっくりである。キャラ自体は『心霊玉手匣』の方が早いが、素人投稿からビデオを出版して生計を立てるというのは、同じようなビジネスである。シリーズ2作目までは確かに意識せざるを得なかったが、3作目はほぼ「素人投稿ビデオ」のみで構成される。一般的なホラーオチかと思いきや、霊に人生を狂わされる友人に最後まで手を差し伸べる「友情」を描いた作風で、シリーズ内でも異質。

そして『心霊玉手匣 4』では、3作目がシリーズを構成するつなぎの作品だったことが明らかになる。4作目の物語は、ある男性が海岸沿いで頭がおかしくなっているところを発見され、実は発見された海につながる川の上流で意識をなくしたんだ…といった話から、玉手匣のメンバーのところに、一緒に川から海まで50キロ歩いて行って欲しいと依頼が来る。実は、その男性が学生時代のときに、ロードムービーが撮りたくてその川で撮影をしていたことがあった。ネタバレになるので物語の確信は避けるが、その際に事件があり、ある女性の頭がおかしくなってしまったというもの。3作目と密接に関わった作品であり、事件と事件が密接に関連している。始まって数十分は単なる川下りをしていく、おとなしい作品かと思ったが、それがとんでもない。クライマックスのシークエンスでは、ある場所とある場所の「視点」と、霊の「視点」が複雑に絡み合い、しかも、過去のある事件の「視点」とも交錯し合う。気づいたら、幾つもの映像を一定時間に脳に叩き込まれるので、情報処理がなかなか進まない。見ている観客もそこにいるかのような混乱を味わえる。

このぶっ飛び模様は『コ○すぎ』の花子さんや、劇場版、最終章の域、一定のシークエンスだけとれば、それ以上のエネルギーに満ちているし、それ以上に「感動」が待っている。『心霊玉手匣 4』は単なるフォロワーではいないぞと、岩崎監督のたいへん野心溢れるロードムービーとして成立している。今後も5、6…とシリーズが続くことを心より願っている!大傑作です。


◼最後に
だらだらした長文となってしまいましたが、冒頭の話に戻ると『流出封印動画 5』と『心霊玉手匣 4』は、撮影技術が進歩されているからこそ面白い動画が撮れるし、編集によってPOVモキュメンタリーはいっそうドラッギーな映画に変容していくのだと思います。それと、『マッドマックス』でもそうだったけど、観客に面白いもの・すごいものを「見せたい」という映画の基本的な欲求を追求しているからこそ、お金がかかっていても、かかっていなかったとしても、観客が喜ぶ作品が出来るのではないかと思います。今後も、こう言った作品群に出会えるのを心待ちにしているし、積極的に見ていきたいなと思いました。どちらのシリーズも短い作品なので、仕事終わりのサラリーマンにもオススメです。いざ、心霊の世界へ…。

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