ガース・ジェニングス『SING/シング』(字幕版)を見た【感想】

先日℃-uteの『To Tomorrow/ファイナルスコール/The Curtain Rises』リリイベ*1の待ち時間の合間にSING/シングを見てきたのだけど、これが傑作でした。イルミネーション・エンターテイメントは『ミニオンズ』撮ったところだったよな〜程度しか覚えてなかったんですが、カメラワーク含めた3DCGの設計を考えてみても、昨年の『ズートピア』に負けず劣らずな出来だったと思う。むしろ、カメラワークと主題の結びつき的には本作の方に軍配が上がると思ったほど。*2

小さい頃ミュージカルに憧れたバスター・ムーンが、舞台の経営をすることになるが運営が振るわず資金繰りに困ってしまう。そこで劇場の復活のため歌のオーディションにかけてみるが、賞金1000ドルを誤って10万ドルと広告をうってしまい波乱万丈な事態となっていく。ステレオタイプな物語で、自分の生活に疑問をもったキャラクターたちが、舞台で花を咲かせるといったもの。歌で人を結びつける想いをもった暖かい映画だったと思う。こういった物語は、夢の実現を盛り立てる為に「成功/挫折」といった要素を描くことが多い。『SING』でももちろん描かれるのだが、「成功/挫折」に至る演出がカメラワークによって繋ぐ、「動線」の演出がとても巧いのだ。

影技術の台頭により「長回し」といった映画技術の概念が、より身近な存在になった。*3技術が成熟した昨今において単にカメラを回しっぱなしにするだけでは、観客の心は動かせない。もちろん、技術だけでなく情動を感じる長回しも存在するが、形式的というよりも、結果的な副産物であったりする。情動よりもまず、技術、カットを割らないことがどのような効果を得るのかを考えていかなければならない。その点、『SING』は、カメラがキャラクターとキャラクターを繋ぐ動線となり、それが接続されたり、切断されたりすることで、ドラマが生まれていく。

映画の冒頭バスター・ムーンが、逃げるように劇場から自転車で街に繰り出していくシーンがある。カメラはゴチャゴチャした道路を縦横無尽に駆け抜けていく。映画のオープニングでよくありそうなシーンではあるが、ここからカメラは次のキャラクターの動きを捉える。こういった動きを繰り返して、キャラクターとキャラクターを動線を介して繋げていくといった演出をする。こういった演出はこれに限っただけではなく、例えば、豚の主婦・ロジ―タは生活におけるルーチンワークを「成功/挫折」のドラマと密接に絡ませている。

子だくさんのロジ―タは子供を朝送り出すだけで大変な労力を使う。その上、夫はそんなロジ―タに気をつかわず、家庭のことは全てロジ―タの管轄としている。*4オーディションに合格し、舞台の練習が始まっていくとそんな家庭の仕事に手がつかなくなってしまう。そんなときに彼女が思いついたのは、自動的に子供の世話(目覚まし,ドアの開閉,食事の支度,子供の送り出し,夫へカギを渡す,食事の後片付け)をしてくれる装置だ。例えるならばドミノ倒しの原理だ。朝のせわしない身支度の運動が線で繋がれていく。そして、ロジ―タが上手くいっているときはスムーズに進行するが、舞台に暗雲が立ち込めるとその動線が破たんする。「成功/挫折」が「接続/切断」といった演出に絡み合うといったように。

舞台に失敗し賞金も実は嘘だったこと(正確には嘘ではないが)が、世間に知れ渡ったバスターは信頼をなくしてしまう。身の回りから「歌」を失った彼は亡くなった父親と同じ職業の洗車屋を始めるが、遠くから聞こえる「歌」に誘われ、おもむろに歩いていく。そして、オーディションでガチガチに緊張して歌えていなかったミーナの曲を聞くことで、また舞台を再スタートするように奮い立つのだ。

このように「接続/切断」を繰り返すことで、ドラマが躍動し物語が展開していく。誰かと誰かが「歌」によって繋がれていく感覚がとても気持ちいい。主題に対して真摯に演出した作品だと感じた。字幕で鑑賞しましたが、役者の歌声が素晴らしかったです。ゴリラのジョニーが甘い声でよかったかな。吹き替えでも鑑賞したいですが、『モアナと伝説の海』も評判がいいし、『ひるね姫』も見たいし『チアダン』で中条あやみちゃんを堪能したいし、『キングコング』すごく見たい。今月は難しそうなのでモヤモヤしてますが、4月に行けるといいな。

シング-オリジナル・サウンドトラック

シング-オリジナル・サウンドトラック

*1:https://note.mu/paranoid3333333/n/nb393b9aa2633

*2:ズートピア』レイアウト的な観点やジャンル(ノワール的)表現として凄いと思いますが、作品的にはすごく苦手。

*3:2015年には長回し(疑似)が売りになった『バードマン』がアカデミー賞の作品賞を獲得している。

*4:それぞれの家庭事情があるので「いい/悪い」の二元論で語る気はないが